ドッグフードを選ぶとき皆さんは何を見て選んでいるでしょうか?
『原材料表示の上位を見て主要な原料が肉や魚かを確認する』など原材料を重視して選んでいる方も多いと思います。
もちろんそれは非常に大切な事です。
ただそれと同じくらい大事なのが『どう作られているか?』つまり製造方法ですね。
全く同じ原料を使用したとしても製造方法が異なれば粒の形や物性、原材料のへの熱のかかり方、製造コストなど違ってきます。
ただしここで注意したいのが『この製法だから絶対に良い』、『この製法は悪い』とは単純に言えません。
それぞれの製法には特徴があり、メリット・デメリットがあります。
今回はドッグフードメーカーの視点からどのような製造方法があるのか?それぞれの特徴や違いを分かりやすく解説していきます。
愛犬へのフード選びの参考にしてみて下さい。
Enoviqueの製造方法は『真空低温スチームドライ製法』となり今回紹介するどの製法にも当てはまりません。詳しく知りたい方はこちらの記事を読んでみて下さい。
→ドッグフードの新しい製法『真空低温スチームドライ製法』とは?
ドライフードの主な製造方法|代表的な5つの製法
実はドライフードの製造方法には「これとこれ」と明確に決められた分類があるわけではありません。
実際に2026年に学術誌『Frontiers in Veterinary Science』に掲載されたペットフードの加工方法に関するレビューでも、ペットフード形態については明確で標準化された分類体系がまだ十分に整備されていないと指摘されています。
→https://www.frontiersin.org/journals/veterinary-science/articles/10.3389/fvets.2026.1690420/full?utm
そこで今回は飼い主さんにも違いが分かりやすいよう、ドライタイプのドッグフードで見られる製造方法を代表的な5つに分けて紹介します。
- エクストルーダー
- コールドプレス
- オーブンベイク
- エアドライ
- フリーズドライ
それぞれがどのような方法で作られているのか順番に見ていきましょう。
最も一般的な製法|エクストルーダーでの製造
↑こちらがエクストルーダーという機械です。
原材料を粉砕・混合した後、水・蒸気を加えながら加熱し、エクストルーダー内部のスクリューで練りながら圧力をかけていきます。
そして、生地を「ダイ」と呼ばれる型から押し出し、一定の大きさにカットすることで粒を成形します。
この動画はダイから押し出してカットし成形している様子ですね。
この状態ではまだ水分を多く含んでいるため、その後『乾燥』、場合によっては『オイル添加』、そして『包装』、このような製造工程となります。
場合によっては『オイル添加』と書いたのはオイル添加しない場合もあるから。
粒にオイル添加行わないものは『ノンオイルコーティング』などと表現されることがあります。
エクストルード製法の大きな特徴のひとつが『膨化』です。
エクストルーダー内部では、生地に熱と高い圧力がかかっています。
その生地がダイから外へ押し出されると、一気に大気圧まで圧力が下がる。この急激な圧力変化によって、生地に含まれていた水分の一部が瞬間的に気化し、その蒸気が膨張することで粒が膨らみます。
このとき粒の内部には細かな気泡や空隙ができ、『多孔質』と呼ばれる構造が形成されます。
エクストルーダーのメリット
エクストルーダーのメリットは主に3つ
- 生産性の高さ
- 加工と同時にデンプンのα化が可能
- 多孔質構造を利用したオイルの浸透(真空コーター)
まず大きなメリットはその生産性の高さ。
原材料の混合から加熱・加圧・成形までを連続的に行うことができるため、安定した品質のドッグフードを大量に生産しやすい。
次に大きなメリットが、加工と同時にデンプンのα化(糊化)を進められることです。
分かりやすい例として『お米』を思い浮かべてみてください。
炊く前の生米は硬くそのままでは食べにくいですよね?
生米に含まれるデンプンはまだ糊化していない状態。一般に『βデンプン』と呼ばれる。この状態はデンプンの結晶構造が保たれているため消化酵素が作用しにくい。つまり消化しにくい。
そこに水を加えて加熱することでデンプンの構造が変化し『α化(糊化)』が起こります。
私たちがお米を炊いて食べるのも、簡単にいえばこの変化を利用しているわけです。
これは犬にとっても同じでデンプンは適切に加熱・糊化されることで消化酵素が作用しやすくなります。
先ほど説明したようにエクストルーダーでは原材料を粉砕・混合した後、水や蒸気を加えながら加熱し、さらに機械的な力を加えて加工していきます。
つまり、ドッグフードの粒を成形する工程と同時に、配合されているデンプンのα化(糊化)を進めることができるということです。
そして3つ目が膨化によってできた多孔質構造を利用できることです。
エクストルーダーで作られた粒の内部には先ほど説明したように細かな空隙が多数形成されています。
この構造を利用して乾燥後の粒にオイルや熱に弱いビタミンなどの添加が可能。
特に『真空コーター』と呼ばれる設備では粒を入れた容器内を一度真空状態にし、その状態でオイルなどを添加します。
その後、容器内の圧力を元に戻すと粒の内部にある空隙へオイルが押し込まれるように浸透していきます。
つまり単純に粒の表面へオイルを吹き付けるだけでなく、エクストルーダーによって作られた多孔質構造を利用してオイルや熱に弱いビタミンなどを粒の内部まで浸透させることができるというわけです。
エクストルーダーのデメリット
一方でエクストルーダーにもデメリットや注意したい点があります。
- 熱や圧力によって一部の栄養成分が影響を受ける
- 膨化・成形するために原材料の配合がある程度制限される
- 機械・加工条件の差が大きく製法名だけでは品質を判断しにくい
まず挙げられるのが加工時に熱や圧力、せん断力が加わることによる栄養成分への影響です。
先ほど紹介したデンプンのα化など加熱することで得られるメリットもありますが、その一方で、熱に弱い一部のビタミンなどは加工中に減少することがあります。
ビタミンプレミックスとは複数のビタミンなどをあらかじめ一定の割合で混合した栄養添加物です。
AAFCOなどの栄養基準を満たすために不足する栄養素を補うほか、加熱などの製造工程や保存中に起こるビタミンの減少を見込んで使用されることもあります。
また加熱条件によってはアミノ酸と糖が反応する『メイラード反応』が進みリジンなど一部のアミノ酸の利用性に影響を与える可能性もあります。
ただしこれは『エクストルーダーを使うと栄養がなくなる』という意味ではありません。
温度、水分量、加工時間、スクリューの回転速度などによって影響の程度は変わりますし、失われる可能性のある栄養素をあらかじめ考慮して配合、加工後に添加したりすることで調整することもできます。
次に膨化した粒を安定して作るためには原材料の配合にもある程度の条件が必要になることです。
一般的にエクストルーダーではデンプンの糊化や膨化する性質を利用して粒の形や構造を作ります。
そのため、どのような原材料でも好きな割合で配合して同じようにきれいな粒を作れるわけではありません。
肉や魚などの割合を増やしたりデンプン源を極端に減らしたりすると、膨化の程度や粒の硬さ、形状などが変わるため、原材料の配合と加工条件を合わせて調整する必要があります。
簡単に言えば成形するために炭水化物(デンプン)源がある程度必要になる。肉や魚の配合比率を上げれば上げるほど成形の難易度が上がる
そしてもうひとつ重要なのが同じエクストルーダーで作られたフードでもその中身は同じではないという事。
エクストルーダーでもスクリューが1軸のものもあれば2軸のものもある。温度や圧力設定もメーカーによって違う。
つまり『エクストルーダーだから良い・悪い』と製造方法だけで判断することはできません。
最も一般的な製造方法であるエクストルーダーではあるが、プレミアムなフードでも格安フードでも採用されており細かな加工条件までメーカーが開示している事は少ない。
ここがフード選びが難しい大きな要因かな、と感じます。
コールドプレス製法とは??
次にコールドプレス製法について。エクストルーダーと比較される事が多い製法ですが、最初に知っておいて欲しいのは・・・
『コールドプレス』という名称だけで、使用する機械や製造条件がひとつに決まっているわけではないという事。
上の動画は『ペレットミル』という機械ですが、ペレットミルを使う事もあれば他の機械の場合もある、って事ですね。
そのため『この機械を使ったらコールドプレス』と言うよりは・・・
高温・高圧で膨化させるのではなく、比較的低い温度で原材料に圧力をかけ、膨化させずに粒を成形する製法
そう考えると分かりやすいと思います。
海外製だと『コールドプレス&オーブンベイク』と成形はコールドプレスで。製法はオーブンベイクと分けて表現するケースもある。
国内のプレミアムドッグフードでも、低温で圧縮・成形する考え方を取り入れた商品が見られますが『コールドプレス』という名称をそのまま使わずメーカー独自の製法名で紹介している場合もあります。
注意して頂きたいのが『コールド』という言葉です。名前だけ見るとフリーズドライのようなもの?と勘違いしそうですが・・・
『コールドプレス=非加熱』ではありません。
圧縮・成形する際には摩擦によって熱が発生しますし、製造方法によっては蒸気を使用する場合もあります。また成形する前の原材料がすでに加熱・乾燥されているケースもあります。
つまり『コールド』というのは原材料を一切加熱しないという意味ではなく、エクストルーダーのような高温・高圧による膨化工程とは異なり、比較的低い温度で圧縮・成形するという意味で捉えるのが分かりやすいでしょう。
コールドプレス製法のメリット
コールドプレス製法の大きなメリットは、エクストルーダーと比較して成形工程で原材料にかかる熱負荷を抑えやすいことです。
ただしここで注意したいのが『コールドプレスだから栄養素がそのまま残る』わけではないということ。
先ほど説明した通りコールドプレスする前の肉や魚、デンプン原料などがあらかじめ加熱・乾燥されている場合もあります。
あくまでも『成形工程』でエクストルーダーと比較した場合、熱負荷を抑えやすい。そうイメージするのが良いかと思います。
あとコールドプレス系のフードを調べると・・・
- 低温だから栄養素が壊れにくい
- 消化に良い
- 胃の中で膨らまないため胃捻転になりにくい
といった説明を見かけますが、ここは慎重に考える必要があります。
栄養素が壊れにくい、消化に良い、これは何度も言っていますがコールドプレスする前の肉や魚、デンプン原料などがあらかじめ加熱・乾燥されている場合もあり、コールドプレスだから良いとまでは断言しにくいです。
実際に2024年の犬を対象とした研究では、同じトウモロコシ主体の配合をペレット加工、オーブンベイク、エクストルーダーで加工して比較したところ、デンプンの加工程度も見かけの総消化率もエクストルーダーが最も高く、ペレット加工が最も低い結果と報告されています。
※ただしこの研究で使用されたのはペレット加工品であり市販されているすべてのコールドプレス製品に当てはまるとは言えない
また胃捻転についてですがAAHA(米国動物病院協会)は胃拡張・胃捻転(GDV)を犬種・遺伝・年齢・食べ方など複数要因が関わる疾患として説明し、食事との関係についても研究継続中としています。
さらに既存研究を評価したレビューでは、ドライキブル(エクストルーダーの粒)そのものとGDVの因果関係を支持する質の高い証拠は不十分とされています。
つまりコールドプレスだから胃拡張・胃捻転を予防できる。とまでは現在のエビデンスからは言えません。
コールドプレスはエクストルーダーとよく比較されます。
そしてエクストルーダーとの違いを分かりやすく伝えるために『低温』『非膨化』といった特徴が強調されることもあります。
『低温で加工できる』『膨化させない』といった製法上の特徴があっても、それだけで『消化に良い』『胃捻転になりにくい』といった健康上の効果まで証明されたことにはなりません。
製法の特徴と、健康への効果は分けて考える必要があります。
コールドプレス製法のデメリット
コールドプレス製法にはどのようなデメリットがあるか?主に考えられるのがこの3つです。
- デンプンのα化が十分に進まない場合がある
- 低温の成形工程だけでは十分な加熱殺菌にならない場合がある
- 使用される設備が加工条件の幅が広く、原材料や配合によって粒の仕上がりが大きく変わる
まずひとつ目が、デンプンのα化(糊化)が十分に進まない場合があることです。
エクストルーダーでは成形と同時にデンプンのα化を進めることができます。
一方コールドプレスでは比較的低い温度で成形するため、成形工程だけで同じようにデンプンのα化が進むとは限りません。
そのためコールドプレス系のフードでは成形する前の段階でデンプン原料がどのような処理を受けているかも重要になります。
あらかじめ加熱・α化された原料を使用するなど最終的な成形工程だけではなく、製造工程全体で考える必要があります。
次に衛生管理です。
食品製造において加熱には原材料に含まれる微生物を減らすという重要な役割があります。
コールドプレスでは成形時の熱負荷を抑えやすい一方、その低温の成形工程だけで十分な加熱殺菌になるとは限りません。
だからといって『コールドプレスは衛生面で危険』という意味ではありません。
肉や魚などを事前に加熱・乾燥する、原材料の衛生状態を管理するなど成形工程だけに頼らず、製造工程全体で安全性を確保することが重要ということです。
そして3つ目が使用する設備や原材料、加工条件によって粒の仕上がりが大きく変わることです。
先ほど説明した通り、『コールドプレス』という名称だけで使用する機械がひとつに決まっているわけではありません。
原材料についても、タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、水分量などによって、粒の硬さや崩れやすさ、成形性は変化します。
ここもエクストルーダーと同じで、「コールドプレスだから良い・悪い」ではなく、実際にどのような原材料を、どのような工程・条件で加工しているのかを見ることが大切です。
オーブンベイク製法とは?
次にオーブンベイク製法について。
簡単に言うと粒の形に成形した後、オーブンで焼いて仕上げる製法。お菓子のクッキーなんかと同じです。
こちらの動画はロータリーモルダーという成形機ですが、これで成形した後にオーブンでの焼きの工程が入ります。
ここでポイントになるのが、『成形』と『焼成』が別の工程になっていることです。
つまり、オーブンベイクという言葉は『どのように粒を成形するか』というより、成形した後にどのように加熱するかを表しています。
少し整理すると・・・
- エクストルーダー:加熱・混錬・加圧・成形を連続して行う加工工程
- コールドプレス:主に圧縮・成形方法
- オーブンベイク:主に成形後の加熱・焼成工程
このように、ひとことで『ドッグフードの製造方法』と言っても製造工程のどの部分を指している言葉なのかがそれぞれ違います。
このあたりが飼い主さんからすると製造方法を分かりにくく感じる大きな理由のひとつだと感じます。
オーブンベイク製法のメリット
- 焼成ならではの独特な食感を作れる
- 商品コンセプトを形にしやすい
まず挙げたいのが、焼成ならではの独特な食感を作れることです。
生地を成形してからオーブンで焼き上げるためエクストルーダーで膨化させた粒とは違った物性に仕上げることができます。
イメージとしては、お菓子のクッキーやビスケットですね。
犬の嗜好性は味や香りだけでなく、粒の硬さや食感、形状などにも影響されます。
あくまでも私自身の経験ですが、多くの飼い主さんからドッグフードの相談を受けてきた中でオーブンベイク系のフードに変更した事で食い付きが改善したケースを何度も見てきました。
そのためこうしたオーブンベイク特有の物性を好む犬もいます。
ただし『オーブンベイクだから食いつきが良い』とまでは言えません。
あくまでもエクストルーダーとは違った食感を作れることが嗜好性を考えるうえでひとつの選択肢になるということです。
次に商品コンセプトを形にしやすい。これは製法そのもののメリットと言うより、さまざまなフードを見てきた中での個人的な印象も含みます。
オーブンベイクはエクストルーダーのような連続加工と比較すると工程が増えやすく生産効率やコストの面では不利になる場合があります。
それでもあえてオーブンベイクを採用する。
商品を見ていると『こういう商品にしたい!』というメーカーの明確な設計意図、のようなものを感じる事があります。
オーブンベイクだから良いフード、とは言わないですが魅力あるフードが多い製法だと感じています。
オーブンベイク製法のデメリット
オーブンベイク製法の主なデメリットはこの3つ
- 工程が増えるため生産効率やコストの面では不利になりやすい
- 『オーブンベイク=低温加工』とは言えない
- エクストルーダーほどはデンプンのα化が進まない場合がある
まず大きのが生産効率とコストです。
必ずしもエクストルーダーの生産ラインより設備が高額になるとは言えませんが、生産工程は増えやすく焼成にはある程度の時間も必要。生産効率は悪くなる傾向があります。
次に注意したいのが『オーブンベイク=低温加工』では無いと言う事。
先ほど紹介した2026年のレビュー論文にはオーブンベイクの代表的な例として175〜230℃程度のオーブンで10〜25分程度焼成する工程が紹介されています。
175〜230℃・・・全然低温じゃないと思いませんか??
これ非常に勘違いしやすいのですが、この175〜230℃という数字はオーブン庫内の設定温度であって、フードそのものが175〜230℃まで上昇するという意味ではありません。
例えば私たちがクッキーやパンを焼く。200℃のオーブンで焼いても食品内部の温度がそのまま200℃になるわけではない。
食品に含まれる水分が蒸発している間はその気化によって熱が奪われるため、製品内部の温度はオーブン庫内の温度とは異なります。
じゃあ庫内温度ではなく製品温度がどれくらいなのか?気になるところですが、ペットフードでは良い情報が無かったので構造が近いビスケットの研究結果を見ると・・・
オーブン庫内180〜220℃で製品中心温度は約100℃くらい。
表面温度は水分が早く抜けているのでもっと高温になりメイラード反応も進むと考えられれます。実際にクッキーを180℃のオーブンで焼いた研究では、表面温度が約150℃まで上昇したことが報告されています。
そもそもドッグフードにおいて『低温』について統一された公式な定義はない。高温・高圧のエクストルーダーに比べれば低温・・・と言えない事もないが、なるべく低温・低圧でやっているエクストルーダーもある。
オーブンベイク製法って『低温でゆっくり焼き上げる』みたいなイメージがありますが、必ずしも低温とは限らない、って事ですね。
最後にデンプンのα化について。これはコールドプレスと同じです。
エアドライ製法とは?
次に紹介するのが『エアドライ製法』です。
ここまで紹介してきたエクストルーダー、コールドプレス、オーブンベイクは粒状のドライフードに加工していく製法でした。
エアドライは少し考え方が違います。
エアドライは『どのように粒を成形するか』というより、どのように水分を抜くかを表す乾燥方法です。
原理としては、家庭用のフードドライヤーとかなり近いです。食品用温風乾燥機の動画を載せておきましたが、こんな感じですね。
実際の設備はメーカーによってトレー式、ラック式、コンベア式など様々であるが基本的な原理は同じ
何度か参照している2026年のレビュー論文だとエアドライの代表的な工程として約50〜70℃の温風で数時間以上乾燥し、最終的な水分量を10〜14%程度まで下げる方法と紹介されています。
つまりエアドライはエクストルーダーのように高温・高圧で一気に粒を作るというより比較的低い温度の空気を使い、時間をかけて水分を取り除いて保存性を高めていく製法と考えると分かりやすいと思います。
肉や魚が多く含まれる場合は70〜80℃くらいが多い印象
エアドライ製法のメリット
エアドライ製法の主なメリットはこの3つです。
- 比較的低い温度で乾燥できる
- 肉や魚を多く使った配合と相性が良い
- ジャーキー状など、独特の物性に仕上げやすい
まず大きなメリットが比較的低い温度で乾燥できることです。
エクストルーダーのように短時間で高い熱や圧力をかけるのではなく、比較的低い温度の温風を使い、時間をかけて水分を抜いていきます。
そのため乾燥工程における熱負荷を抑えやすいことはエアドライのメリットのひとつです。
次に肉や魚を多く使った配合と相性が良いこと。
エクストルーダーだけでなくコールドプレスやオーブンベイクでも一定の形をした粒を安定して作るためには、デンプンなど結着や構造形成に役立つ原料(炭水化物源)が必要になることが多くあります。
肉や魚だけでは狙った硬さや形を持つ粒として安定して成形することが難しくなるためです。
一方エアドライの場合は必ずしも一般的な『カリカリ』のような粒を作る必要がありません。
そのため他の粒状ドライフードと比較するとデンプンなどの結着原料への依存を抑えながら、肉や魚の配合比率を高めた設計をしやすいという特徴があります。
肉や魚の割合が高くなり炭水化物源が減る。つまり栄養成分的には高タンパク・高脂質・低炭水化物なものが多くなる。
もちろん『肉が多ければ良いフード』『高タンパク・高脂質だから良い』という話ではありませんが、嗜好性の高いフードを作りやすいのが強みですね。
最後に物性面でジャーキーに近いフードを作ることができます。
こうした食感を好む犬もいますし、一般的なカリカリとは違った物性の選択肢になる点も強み。
つまりエアドライは『比較的低い温度で乾燥しながら、肉や魚の比率を高めた配合や、一般的な粒状ドライフードとは異なる物性を作りやすい製法』と考えると分かりやすいと思います。
エアドライ製法のデメリット
エアドライ製法の主なデメリットはこの2つ
- 低温乾燥だけでは十分な加熱殺菌にならない場合がある
- 乾燥に時間がかかり、生産効率やコスト面で不利になりやすい
まず注意したいのが衛生管理です。
これは低温加工系全般に言える事ですが、乾燥工程だけで十分な加熱殺菌になるとは限らない。
特にエアドライは肉や魚の配合比率が高いものも多い。そのため原材料の衛生状態や前処理、乾燥温度・時間などを含めて製造工程全体で安全性を確保する必要があります。
そしてもうひとつが乾燥に時間がかかること。
乾燥機を長時間稼働させる必要もあるため、生産効率やエネルギーコストの面では不利になりやすい製法です。
つまり、低温で時間をかけて乾燥できることはメリットである一方その『時間をかける』こと自体が製造側にとってはデメリットにもなるということですね。
フリーズドライ製法とは?
最後に紹介するのが『フリーズドライ製法』です。一般的な加熱乾燥では食品に熱を加えることで『水 → 水蒸気』という変化を利用して水分を取り除いていきます。
しかしフリーズドライの原理はこれとは大きく異なります。
通常、氷に熱を加えると『氷 → 水 → 水蒸気』と変化します。
一方フリーズドライでは原材料を一度凍結させた後、真空状態にすること『氷 → 水蒸気』と、液体の水を経由せず直接水蒸気へ変化させます。
この現象を『昇華』と呼びます。
つまりフリーズドライとは原材料を凍結し真空下で氷を昇華させることで水分を取り除く乾燥方法です。
フリーズドライは一般に非加熱製法と表現されることがありますが厳密には乾燥工程で熱エネルギーを加えます。
ただし、食品を高温で加熱調理するのではなく真空下で低い製品温度を保ちながら凍った水分を昇華させる製法です。
余談ですがEnoviqueが採用している真空低温スチームドライ製法にも真空を利用して水分を抜いていくという共通点があります。
ただし水分を抜く仕組みは異なります。
フリーズドライ:凍結 → 真空 → 氷を『昇華』させる
Enovique:凍結させない → 真空 → 沸点を下げて水分を『蒸発』させる
フリーズドライ製法のメリット
フリーズドライのメリットは主にこの3つ
- 生の状態に近いまま乾燥しやすい
- 成形のためのデンプン源に頼る必要がなく、肉・魚を高配合しやすい
- 復水性の高い独特な物性で色・香りなどの変化を抑えやすい
フリーズドライ最大のメリットが生の状態に近いまま乾燥しやすい、ここだと感じます。
先ほど説明した通り、フリーズドライは原材料を凍結し、真空下で水分を『昇華』させて乾燥します。
乾燥工程で多少熱エネルギーは加えますが、高温での加熱調理とは異なり生の状態に近いまま乾燥する事が可能です。
実際に海外では『Freeze-Dried Raw』として、生の原材料をフリーズドライしたペットフードも多く販売されています。
次に成形のためデンプン源に頼る必要がない事。
カリカリタイプのフードは成形のためデンプンを含む原材料が必須です。しかしフリーズドライはその制限がなく、肉や魚を高い割合で使用した商品設計がしやすいという特徴があります。
フリーズドライはデンプン(炭水化物)源をほぼ使う必要がないので、原材料構成のほとんどが肉・・・のような設計が可能。
結果として超高タンパク・超高脂質・超低炭水化物、特に海外性のものはそんな栄養成分値になる事が多い。
そしてもうひとつがフリーズドライならではの独特な物性です。
食品を凍結すると内部の水分が氷になります。その氷が昇華して抜けると氷が存在していた部分に細かな空隙が残ります。
この構造が水を加えたときにも素早く吸収して戻りやすい、つまり『復水性』の高い物性となります。
また低い製品温度と真空環境で乾燥するため一般的な熱風乾燥などと比較して、食品の色や香り、形状などの変化を抑えやすいこともフリーズドライの大きな特徴です。
フリーズドライ製法のデメリット
フリーズドライ製法のデメリットとしては主にこの3つが挙げられます。
- 生原料を使用する場合、フリーズドライ工程では十分な殺菌にならない
- 多孔質構造のため表面積が広くなり乾燥後は吸湿・酸化への対策が重要
- 製造効率が低く、原材料構成からも価格が高くなりやすい
まず注意したいのが、フリーズドライは殺菌を目的とした製法ではないということです。
特に生肉や生魚を加熱せずにフリーズドライする場合、原材料に細菌が存在していれば乾燥工程だけですべて死滅するとは限りません。
ただしフリーズドライによって水分活性が下がれば、乾燥後に細菌が増殖しにくい状態にはなる。
実際に2025年には米国のFoodynamicsが製造した複数ブランドのフリーズドライペットトリーツからSalmonellaが検出されリコールが行われています。
FDA(アメリカ食品医薬品局)の発表ではフリーズドライの鶏肉を使用したトリーツなどが対象となっており、FDAによる製品検査でサルモネラ菌が確認されたことが回収のきっかけとなりました。なお、発表時点では人やペットの健康被害は報告されていません。
もちろんこの事例だけをもって『フリーズドライは危険』ということではありません。
重要なのはフリーズドライによって水分を十分に抜いたことと、原材料に存在する細菌を殺菌できたことは同じではないという点です。
次にメリットとして紹介した『多孔質構造』は保存の面ではデメリットにもなります。
フリーズドライでは氷が昇華した跡に細かな空隙が残るため、非常に軽く、復水性の高い食品になります。
一方で空隙が多くなることで表面積も大きくなり、乾燥後に空気へ触れると酸化の影響を受けやすく、肉や魚を多く使用した商品では脂質も多い。
そのため酸素との接触による脂質酸化や風味の劣化には注意が必要です。
どのフードでもそうですが、特にフリーズドライは酸化・吸湿による劣化が起こりやすいので、開封後はしっかり封をして涼しい場所で保管しましょう。
たまに冷蔵庫保管する方がいますが、冷蔵庫内と外の温度差により結露が発生。これによって品質劣化するリスクがあるのでオススメしません。
そして最後に製造効率とコスト。
フリーズドライ製法は魅力的な製品が作れるものの製造効率が非常に悪い。また肉や魚が高配合になる事が多いので原材料費も高くなる傾向がある。
そのため製品価格も高い。ここは飼い主的には辛いところですね。
ドッグフードは〇〇製法だから良いって訳ではない

さて、今回は代表的なドライフードの製造方法5つについて解説してみました。
ここまで読んで頂くとどの製法にもメリットがあり、同時にデメリットもある。
『この製法だから優れている』『この製法だから良くない』と、一概には言えないということが分かって頂けたかなと思います。
さらに難しいのが、同じ製造方法であっても実際の工程や使用する機械、加工条件などがメーカーによって異なることです。
例えばエクストルーダーにも1軸のものがあれば2軸のものがあります。
『コールドプレス製法』と言っても、どのような機械を使い、どのような条件で成形しているのかはメーカーによって異なります。
『〇〇℃の低温加工』と言われても、それが乾燥機内の設定温度なのか?実際の製品温度なのか?製品温度であってもそれは中心温度なのか表面温度なのか?
それによって意味は大きく変わります。
特に加工温度はメーカーの立場になって思いますが、どう伝えるべきか非常に難しいです。
Enoviqueの場合だと乾燥機内温度を基本は60℃に設定しています。そして真空にして沸点を約45℃まで低くしていますが、当然ですが乾燥中の製品温度は60℃になる事はほぼない。
※殺菌工程は70℃設定にしています。
沸点45℃なので低い温度でジワジワ蒸発、真空下なので熱を伝える空気自体が少ないし、気化熱で熱は奪われる。乾燥工程中の製品温度はほとんどが45℃より低い温度だが・・・
これどう飼い主さんに使えるのが正解なのか?と悩みます・・・
こうした製法名だけでは実際の製造工程まで分からないことが飼い主さんがドッグフード選びで混乱する大きな要因のひとつだと思います。
とはいえ、どんな原材料を使っているのかを見るのと同じように、『その原材料をどのように加工しているのか?』を知ることも、愛犬のフードを選ぶうえで大切な判断材料のひとつです。
そんな思いから、今回はドライフードの製造方法について少し掘り下げて紹介してみました。
最後に少しだけEnoviqueの話を。
実はドッグフードの製造方法として一番理に適っているのは『エクストルーダー』だと個人的には思っています。
これは私が元々飼料の世界(牛・豚・鶏など畜産や養魚の飼料)にいてエクストルーダーが最も身近な機械だった、ってのもあります。
ただ多くのメーカーが採用している事からも生産性・品質など総合的に見ればエクストルーダーが優れているのは事実。
なんですが・・・Enoviqueでエクストルーダーを採用する気は一切なかったです。
この理由は世界的に評価されている海外製エクストルーダーのドライフード。これらと同等かそれ以上のものを作るには最低でも2軸エクストルーダーで真空コーターを導入した製造ラインを構築する必要がある。
それには莫大な設備投資が必要。
小〜中規模業者にはエクストルーダーは厳しいからです。
なので当初はオーブンベイク製法で考えていましたが、ある時ふとこう思いました。
『既存の製造方法から考える必要ってあるのか?人間の食品分野も含めて視野をもっと広げて製造方法を考えた方が良いのでは・・・』と。
そうして行き着いたのが『真空低温スチームドライ製法』です。
現時点ではトリーツのみの販売、フードは開発中となりますが、トリーツはその製法の魅力をダイレクトに伝えられる。そう思っています。
気になる方はぜひEnoviqueのトリーツを試してみて下さい!
では今回はここまで。また次回もよろしくお願いいたします。

